「日本に生まれて良かった」という若者、右傾化の兆候なのか

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キム・ギョンファ神田外国語大学准教授

◇「日本に生まれてよかった」という日本の若者たち

「日本に生まれて良かった」と言う日本の若者に出会うのは難しくない。 大した理由があるわけではない。「日本の食べ物がおいしいから」とか「着物がかわいくて」といった大衆文化に対する親近感が国に対する好感として表現される場合もあるし、あるいは「人々が親切だから」、「街がきれいだから」といった風に、見知らぬ外国に対する漠然とした距離感が社会に対する肯定的な評価に変わることもある。一度は「東京ディズニーランドがあるから」という虚を突く理由を言う若者がいて笑ってしまった。彼女は心からディズニーランドのために「日本で生まれてよかった」と思ったのではないだろう。 日常の中で何気なく接するプラスの要素を、自分の国、自文化への愛着に還元した軽い気持ちだったと思う。国家に対する自負心というには大げさだが、このような軽い心掛けも広い意味では愛国心の範疇に含まれている。

自分の文化的アイデンティティに対して自負心を持つ態度が悪いわけではないが、歴史的に行き過ぎた愛国主義は得よりは損が多かった。 自国に対する忠誠心を最も重要な価値として優先させ、他国や他文化に対する嫌悪や攻撃を合理化する論理に悪用された場合が少なくなかったためだ。 最近の代表的な事例はトランプ政権下のアメリカ社会だろう。 「アメリカを再び偉大にする」と叫ぶ大統領の愛国主義が文化的、経済的排他主義を煽るネガティブな力として作用した。 太平洋戦争当時、日本社会も愛国主義の副作用をしっかりと経験した。 「戦争に協力することこそ真の愛国心」というプロパガンダが大きく鳴り響く中、戦争に反対する人々は「国民の資格がない」という非難に耐えなければならなかった。 文化的排他主義が世界秩序を脅かす最近の状況を見ても、愛国心が戦争を合理化した過去の教訓を振り返っても、行き過ぎた愛国主義は得よりは損が多いという気がする。 実際、事あるごとに愛国心を強調する現象は社会が右傾化する兆しだ。 では、日常の中で頻繁に「日本に生まれてよかった」理由を見つける日本の若者たちは右傾化しているのだろうか。

◇若い世代は「イデオロギーのない保守化」に含まれる

最近の研究結果を見ると、日本社会全般で右傾化する傾向は比較的明白である。 しかし、若い世代の特徴を切り離して見ると、風変わりな点がある。 まず愛国主義は中高年世代と若い世代で共通して強化されている要素だ。 日本の若者が「日本で生まれてよかった」という点をよく見つけるのもこうした傾向の一環であろう。 ところが興味深いことに、歴史的、文化的、人種的純粋性を強調する排他的性向はむしろ弱くなった。 純血主義と呼ぶこのような性向は愛国主義と歩調を合わせて強まるのが一般的だ。 例えば、アメリカで「アメリカを偉大に」というスローガンが叫ばれ、他国だけでなく自国内の有色人種までも嫌悪、排撃する風土が生まれ始めた。 ところが、日本の若者の場合、愛国心を鼓吹する風潮は強まるものの、純血主義と排他主義は減っていることが調査で分かった。 「日本に生まれてよかった」という自負心は大きくなったが、攻撃性に変質しやすい性向は弱まったことから、一般的な右傾化の様相とは距離がある。

他の尺度でも反転があった。 社会的安定と権威、秩序を重視する保守的性向が中高年層より若者層でむしろ大きく表れた。 一般的に、若者は権力に対抗し、既存の秩序に対抗するというイメージがある。 ところが、正反対に若い世代ほど権威に服従し、治安を重視する傾向が顕著だった。 一方、経済的な面でも従来の権威を擁護する態度が明確であった。 社会問題があれば共同体が協力して一緒に解決しなければならないという意識よりは、個人レベルで克服しなければならないという考え方が支配的であり、そのため貧富格差や社会階層が存在することを肯定する。 例えば、日本では若年層で原発を支持する世論が優勢である。 大々的な変化を予告する「脱原発」政策よりも、日本政府が数十年間推進してきた経済成長中心政策を維持する方がより安定的ということだ。

総合すると、日本の若い世代は、明確に右派的思想に接近中だとは言い難いが、社会的権威や既存秩序を擁護する保守性向はより強くなっている。 日本社会の政治的、経済的状況、ひいては就業、家族、恋愛など若者が日常生活の中で感じる不安定性が高くなっているからだという説明が大体受け入れられる。 未来に対する不安感がさらに大きくなる改革よりは、既存の秩序と安定性を選択するしかないということだ。 一方、親世代から豊かさを提供された経験が保守的な態度をあおるという分析もある。 実際、親世代に経済的に依存している若者ほど権威主義を好む傾向があることが調査で分かった。 政治的右傾化ではないが、社会的、経済的に保守的な権威と秩序を重視するこのような状況を「イデオロギーのない保守化」とも言う。

◇韓日の若い世代、文化の違いより世代差が大きい

韓日の若者は外国で会うとすぐ友達になる。 歴史問題など政治的問題に対する異見もあるが、言語の障壁さえ越えれば様々な問題に対して比較的話がよく通じるからだ。 国際交流プログラムに参加した韓日の大学生たちに「世代の違いと文化の違いのどちらがより大きいか」という質問をしたが、全員口をそろえて「世代の違いがはるかに大きい」と答えた。 同じ文化圏に属し、衣食住の生活習慣が似ているという点もあるが、インターネットやSNSなど同一のメディア環境の中で生活するという側面が与える影響も大きいだろう。 実際、世界のどこへ行ってもグーグルで検索し、ツイッターやインスタグラムなどのSNSに日常生活を公開する若者はよく見かける。 若者が関心を持つテーマも考えることも、好きだったり嫌いだったりすることも意外と似たり寄ったりだ。 しかも、韓国と日本は文化的に似ているだけでなく、同質的な社会問題を抱えているため、就職や恋愛などの悩みもそれほど違わない。 日本の若者の情緒を理解することが、韓国の若者をよりよく知ることができる方法でもある。

若い日本人の「イデオロギーのない保守化」を,単に隣の国のスプリットと片付けるわけではない 若者が権威や既存秩序に抵抗するどころか、むしろ擁護する現象は、改革派と守旧派を区分する旧時代的陣営論理では「保守化」に見える。 しかし、日本の若者たちと話をすれば、実体不明の政治的イデオロギーとの決別は、過去の秩序を守ろうという保守的意志によるものではなさそうだ。 見方を変えれば、厳しい競争の中で敗北感を味わうのが常である現実と妥協した自然な結果に過ぎないのだ。 こうした観点から見ると、「イデオロギーのない保守化」は若い世代が右傾化する兆候というよりは、左派と右派を分ける既成世代の政治感覚が若者たちには何の共感も呼び起こさないという意味にも読める。 韓日を問わず、既成世代が真剣に熟考する必要がある地点でもある。

※コラムに引用した研究は、田辺俊介編著 (2019)『日本人は右傾化したのか:データ分析で実像を読み解く』(勁草書房)、に掲載されたもの。

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Source: かんこく!韓国の反応翻訳ブログ