1: 2018/02/03(土) 10:12:08.18 ID:CAP_USER

特集ワイド
儒教バッシングの愚 嫌中嫌韓の論拠とされているが…

毎日新聞2018年1月31日 東京夕刊

社会一般
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「儒教バッシング」の本や記事が目立っている。ヘイトスピーチをする人々も、こうした本や記事にある儒教の「独自解釈」や「歴史的事実」を信じている人も少なくない

 中国や韓国を批判し、あるいは罵倒する「嫌中・嫌韓本」はもはや珍しくないが、最近はその論拠に「儒教」を使うのが流行らしい。韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪は来月9日に開幕するし、東京五輪・パラリンピックまであと2年。この国は「おもてなし」が自慢のはずだが、こんなことでいいのか。【吉井理記】

 本題に入る前に、クイズである。

 (1)「韓国の崩壊」(2)「大予言 中国崩壊のシナリオ」(3)「人民元大崩壊」(4)「それでも中国は崩壊する」(5)「韓国大崩壊」

 どれも嫌中嫌韓、または両国の批判本の一部だが、いつ出版された本か、お分かりだろうか。

 ここ最近の……と言いたいが、(1)は30年前の1988年、(2)は89年、(3)は98年、(4)は2004年、(5)は昨年である。「人を呪わば穴二つ」というが、この間、崩壊したのは日本のバブル経済くらいか。30年間、隣国の崩壊を叫び続ける本に、読者はどんな意義を感じるだろう。

 さて、昨年の新書ベストセラーは米国人弁護士、ケント・ギルバート氏の「儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇」(講談社)。50万部以上、年間4位(トーハン調べ)と売れた。

 ヒットに触発されたのか、同じような本を出す有名作家もいたし、雑誌も「中国人と韓国人が抱くダークマター=儒教」(月刊誌「WiLL」・17年7月号)といった記事を載せるなど、儒教に絡める中国、韓国批判が今のブームである。

 共通するのは「日本と違い、中国や韓国は儒教にとらわれたせいで『近代化』が遅れた」「最近の中国の海外進出は独善的な中華思想が原因」「中国や韓国が日本を『格下』に見たがるのも儒教の影響」……といった指摘である。東洋思想の専門家はどう見るか?

https://mainichi.jp/articles/20180131/dde/012/040/003000c

2: 2018/02/03(土) 10:12:22.49 ID:CAP_USER

歴史無視し「天に唾」

 「ナンセンスな主張です。学術的に間違いだらけ、ということは断言していい」と怒り心頭なのは中国思想史が専門の東大教授、小島毅さん。バッシング本に対抗して「儒教が支えた明治維新」(晶文社)を出したばかりだ。

 そもそも儒教とは何か。広辞苑には「孔子を祖とする教学。儒学の教え」とあるが、もちろんこの説明では不十分で、2500年前の孔子以来、積み重ねられた膨大な思想・哲学体系だし、さまざまな学派もある。「儒教のせいで……」と一口に言えるほど、単純ではない。

 「いかにばかげているか。一例を挙げましょう。確かに儒教の世界観に中華思想があります。自分たちの文明が正しく、周辺は文明がない野蛮な『夷狄(いてき)』だ。彼らに文明を広めることが正義だという考えです。では、中国の最近の海外進出は、中華思想に基づく中国特有の現象でしょうか」

 歴史をひもとけば、海外進出をした覇権主義国家はたくさんある。「自分たちが正しい文明で、他は野蛮だ」という認識は、アジアやアフリカに進出した欧米国家に共通した考えだった。イスラム教国も同様だ。当然、彼らは儒教の信奉者ではない。「自分たちが正義」という考えは、古今東西にある。

 「日本も例外ではありません。実は1920~30年代には『王朝交代のない日本は、儒教を正しく実践している国だ。中国に正しい儒教を教えてやる』という論理で大陸侵略を正当化したんです」

 実際「正しい儒教を実践する日本こそ万国の中心である」という変質した考えは、山鹿素行(やまがそこう)ら江戸期の儒学者が唱えだし、儒教と神道を結び付ける「神儒(しんじゅ)一致」の思想や、鎌倉時代以来の「神国思想」と交わりつつ、「天皇中心の国体」を至上とする皇国史観に至る。戦前の思想本は儒教と皇国史観を結び付けたものが少なくない。

 「明治維新の『偉人』とされる吉田松陰や西郷隆盛らも儒教を学びました。彼らの原動力になった『尊王攘夷(じょうい)』も、元来は中国・韓国の儒教にあった考えで、これを幕末の状況に当てはめ、本来の統治者たる天皇が号令し、『夷狄』である西洋を排除しよう、という思想。その儒教が中韓の近代化を阻んだ、という指摘も、あまりに一面的です」

 19世紀末、清朝の官僚が欧州を視察した時の話だ。機械化された工場を現地の経営者が見せ、「人減らしができた」と誇るが、儒教を信条とする官僚は「人々の仕事を奪うなんて、我々のすべきことではない」と批判した、という。企業利益だけを重視する論理とは、また違う論理が彼らにはあったのだ。

 「儒教は人民の格差がない『均』を尊ぶから、確かに資本主義と相いれない面がある。一方で、日本の高度成長は、儒教的な、年功序列に基づく終身雇用や、運動会を開くような家族的な企業風土が実現させた、という理論もある。韓国や台湾などが発展した80年代には『儒教資本主義』『儒教経営論』がブームになったほど。どの側面を見るかで評価は全く異なる。それほど無意味な指摘です」

 「中韓は日本を格下に見る」という議論も、中国や韓国に対する戦前日本の振る舞いや、現代もあふれるヘイトスピーチの例を引くまでもなく、意味がない言説だろう。「韓国は儒教のせいで『男尊女卑』が根強い」という論者もいるが、例えば、女性国会議員(韓国は1院制。2院制の日本は衆議院)の割合は、日本(10・1%・17年)より韓国(17%・16年)の方が高い。

 「日本は古来、米作りや儒教、漢字など、中国・韓国から多くを学んだ。儒教に名を借り、歴史的事実や学術的研究を無視した批判は、まさに天に唾する行為です」(小島さん)

3: 2018/02/03(土) 10:12:39.17 ID:CAP_USER

謙虚に学ぶ姿勢を

 ちょっと考えれば、事実としても、論理としても成り立たない。でもそんな言説が喜ばれる。「日本会議 戦前回帰への情念」(集英社)などの著書で、戦前思想と現代との関係を追究する戦史研究家、山崎雅弘さんは「政治体制も歴史も異なる中韓を、まとめて攻撃するには、儒教という漠然とした概念は便利なのでしょう。別々にたたくより、まとめてたたく方が、手間が省けますから」と手厳しい。

 「深刻なのは、こうした本がベストセラーになる風潮です。『中韓に学ぶことなどない』と豪語する。そして自国を礼賛する本やテレビ番組は増える一方です。戦前も、日本が世界一スゴイ(万邦無比)と思い込む夜郎自大な思想が広がりました。謙虚に学ぶ姿勢を捨てるのは、大変危険です」

 山崎さんが思い出すのは、韓国の高校生らが犠牲になった貨客船セウォル号の沈没事故(14年)だ。「この時、韓国の公共放送KBSの社長が、政府にとって都合の悪い報道をしないよう局員に圧力をかけた。しかし反発した記者たちは、ストライキを打ち、視聴者に見える形で社内で起きている抵抗を伝えました。結果、社長は解任された。韓国人は道徳や倫理観がない? むしろ逆です。道徳や正義、責任感が個人に根付いていたから、彼らは圧力を拒絶した。日本人、特に日本のメディアが学ぶべき点ではないですか」

 隣国を見下し、嫌中嫌韓本を喜ぶ人が増える国こそ、文字通りの「悲劇」だろう。

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Source: おもしろ韓国ニュース速報